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「攻撃」がやみ、バサバサっと風圧を受ける。
おそるおそる、腕を下ろした。
見慣れない光景がそこにあった。
マキの肩に、黒光りするカラスが止まっている。
さっき、窓ガラスを叩いていた奴だ。
「カア」
カラスは口を大きく開けて、真正面からリョウを威嚇した。
マキは困ったような顔でリョウから目をそらし、肩に乗ったカラスを見た。「この人は私の……友達よ。敵じゃないわ」
まるで、人間を相手にしているような口調だ。
カラスのほうも、マキの言葉を理解したかのように首を傾げ、パチパチと瞬きをした。
羽根を広げてやさしく飛びたち、すぐ近くの木の枝に止まる。
そしてリョウに向かって、カッカッカッ、とバカにしたように鳴いた。
目の前の出来事を呆然と眺めていたリョウは、その声を聞いて、急に腹が立ってきた。
が、マキがスッと歩き出して店内へ入っていったので、急いでキャスケットを拾ってついていった。
マキは、何事もなかったように席に戻った。
カフェの中やテラス席にいた客たちも、カラスが騒いでいた時は、なんだなんだと注目し、立ち上がって見物したりしていたが、マキがあまりにも落ち着いているので、やがて元のようにおしゃべりや勉強に戻っていった。
リョウはキャスケットをかぶり直し、窓の外に見えるカラスを気にしながら、マキの向かいに座った。
「あのカラスって、紅子さんのところの?」
「そうよ」
何気ない質問と何気ない答え。
……ぴったり同じ間を置いて、ふたりは顔を見合わせた。
「えっ」とマキ。
「あっ」とリョウ。
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