第一章

10/25
前へ
/45ページ
次へ
 先に口を開いたのはマキだった。目が険しくなっている。 「どうして、あなたが紅子さんを知っているの」 「えーっと」 「しかも、カラスのことまで」 「うーんと」  リョウは頭を抱えた。    *  マキの執拗な追及にあって、リョウはマキに内緒で〈狗番〉の京泊(きょうどまり)紅子の結界へ行っていたことを「白状」した。 (師匠も紅子さんも、僕が六ツ森稲荷神社に行ったことをちゃんと黙っていてくれたんだ)  喋りながらリョウは、うっかり紅子の名前を出してしまった自分を激しく責めていた。  錯乱した〈(きつね)〉が、夜道でマキに助けを求めてきたのはちょうど一週間前のこと。  〈狗〉の名は皆神きあらといい、何者かに追われている様子だった。  マキが協力を仰いだ祖父の鳴彦は、品川駅前の高層ビルの屋上に結界を持つ紅子にきあらを預けた。そして、その場所をマキに知らせるべく、通信用に訓練されたカラスを飛ばした。  しかしマキは、通信を受け取る前に、きあらを追ってきた〈(きつね)〉の葉木にさらわれてしまった。きあらが原因となってシヅエの群れと葉木のあいだに抗争が起こるかもしれないと知ったリョウは、なんとかマキを奪還して、マキが休んでいる間にきあらが匿われている結界へ乗り込んだ。  そこへ攻めてきた葉木と、隕鉄の破魔矢でむかえ討つ鳴彦の一騎討ちをからくも止めたのは、リョウから発せられた不思議な「白い光」だった。  そのあとリョウは鳴彦に、翌朝もう一度、マキあてにカラスを飛ばして欲しいと頼んだ。それから何食わぬ顔でマキのマンションへ行き、部屋の片付けを手伝ったのである。  ビルの屋上にあるその結界が「六ツ森稲荷神社」という名称であることは、その後で知った──。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加