104人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんなさい」
リョウは平謝りしたが、マキは容赦なかった。
「何に対してのごめんなさいなの」
「ぼくがマキさんより先に通信を受け取って紅子さんのところへ行ったことを黙っていたこと」
リョウは早口で一気に言った。マキは彼の全面降伏の態度を見て、それ以上何も言わずに、冷めた紅茶を飲んだ。
「……でも、おかしいわね。通信文には、結界の場所が、私と師匠にだけわかる暗号で書かれていたのよ。どうやって解読したの?」
「え」
「それに、そもそもあなたは〈狗番〉のカラスを受け取れないはず……」
リョウは急に何かを思い出したように、あたりをきょろきょろと見回した。
「お昼のパンを焼かなきゃ」
言うが早いか、ガタガタと席を立った。
「え? ちょっと」
マキは、リョウの背に不満をぶつけた。
彼は厨房のドアを開けながら、軽やかに振り返った。
「ぼく、月水金の9時から4時でシフト入ってるんだ。またきてね」
いきなり取り残されたマキは、「もう……なんなの」とあきれたようにつぶやくしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!