第一章

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(“お坊っちゃま”っていうのがあずまくんのこと……? それじゃ、さよみさんはあずまくんが〈(きつね)〉として〈目醒め〉るのを目撃し、そのあとで自分の〈目醒め〉をあずまくんに導かれたということ……!?)  さよみが会計をする後ろでドリンクを作りながら、リョウはさよみが経験したことを想像した。  少年少女が〈(きつね)〉として〈目醒め〉るとき、〈導き手〉の〈(きつね)〉は、爆発的に広がる生体磁気を整えるため、〈目醒め〉ているものの深層意識に入り込む。ふたりはそのとき、すべての記憶を共有する。  さよみが篠目家の使用人だったのなら、以前から知っているもの同士が、さらにお互いを深く知った、ということになる。  さよみの表情からは、“お坊っちゃま”に対する深い親愛の情が感じられた。  あずまのことは好きになれないが、〈導き手〉の記憶を持たないリョウにとって、彼らの関係はちょっぴりうらやましいような気がした。  さよみに話の続きを聞きたかったが、学生グループの後もしばらく客が続き、ひと息ついたときには、彼女はすっかりマネージャーの顔に戻っていた。  厨房に入ると、店内が見える間仕切り窓の前に立ってリョウに話しかけた。 「今日は、氷碕さんのご様子を伺いにちょっと立ち寄りました。ここで働く上で、何か困っていることはありませんか? あるいは、気がついたこととか。どんなことでも構いません。お気軽におっしゃってください」 「いえ、特に……。有田さんはとてもよくしてくれますし、ドリンクの作り方とかパンの焼き方も覚えましたし」 「では、問題なさそうですね。よかったです」  さわやかに言うさよみに、リョウは遠慮がちに切り出した。 「あの、そういえば……仕事とは直接関係ないんですけど」 「はい」 「カラスが来ました」 「は?」
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