第一章

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    4  空がひどく遠く感じられる。  どちらを向いても、延々と続く木立。  そのおびただしい木々が、夜になってから強くなってきた風で、絶えずざわざわと揺れている。  寒冷前線の影響で引き起こされる「春の嵐」の前兆だ。今夜遅くから、大雨の予報が出ている。  そんな荒れ模様の中、地面に一人で立っているのが、これほど心細いとは。  何しろ、彼の存在は敵から丸見えなのだ。  木の上からくることはわかっているが、どの方向からなのか、見当もつかない。  〈(きつね)〉は夜目が効く。しかし、揺れ続ける梢の厚い葉の中を、縦横無尽に渡る影を目視で見つけるには、やはり訓練が必要だ。  つまり、今は聴覚にも視覚にも頼ることができない。  だから、磁気を感じる器官──〈第三の目〉に極限まで意識を集中する。  身体の方は、いつでも飛び出せるようにスタンバイしている。  ……  ざわ。  「ざ」で飛び出した。  葉ずれとはわずかに違う音質。  しかし、磁気は飛んでこない。
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