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第一章
1
電話が鳴った。
誰がかけてきたのか、さよみには見当がついた。そもそも、この番号にかけてくる人間は限られている。
受話器を取って社名を告げると、予想通りの声が返ってきた。
「氷碕リョウと申します」
「おはようございます。さよみです」
「あっ、おはようございます。あのう、シヅエさんいますか」
「社長はあいにく取り込み中ですの。昨夜申し上げましたように、あずまの〈侵蝕〉の治療にかかっていますので」
さよみの弟分の〈狗〉の当麻がとつぜん埋められ、その苦しみが〈導き手〉である篠目あずまに〈侵蝕〉した事件は、昨夜、一応の解決を見た。頭領のシヅエ自らが施す〈侵蝕〉の治療は、今日の夜までかかるだろう。
「急ぎのご用ですか?」
「うーん、急ぎ……かな……」
リョウの返事は煮え切らない。
何度か質問を繰り返すと、どうやら、シヅエに相談したいことがあるらしいとわかった。
さよみは、頭領のシヅエ、その〈手下〉のあずまに続く群れの三番手であり、彼らが不在のあいだは代理を任されている。シヅエの被後見人であるリョウの相談とあれば、聞いてやらないわけにいかない。
「お手伝いさせていただきます」
さよみは、親身になって、電話の相手に呼びかけた。
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