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リョウが汐留にあるシヅエの会社に行くと、ビル一階のレストランの前に、見たことのない男が立っていた。以前さよみが待っていた場所だ。
ノーネクタイでワイシャツの袖をまくったその男は、リョウを見つけると、へらっと相好を崩した。
「おつかれっすー」などとやけに軽い態度でリョウを先導する。
エレベーターに乗って、オフィスのあるフロアへ。
前回来た時は、複数の「影」の野次馬が視界の端をチラチラしていたが、今回はそれがない。おびただしい観葉植物を置いたオフィスは、誰もいないかのようにしんとしていた。
個室に通された。大きなテーブルに椅子が8つセットされた、小さな会議室。
案内人は、お待ちくださあい、と言い残して扉を閉めた。
家具の他に何もない殺風景な室内で、リョウは手持ち無沙汰になった。
そこで、昨夜から今朝にかけて練習していた、あることを始めた。
昨夜リョウは、倭加宮マキの住む学生マンションの部屋に行って、片付けを手伝った。マキが保護した目醒めたての〈狗〉が磁気を暴走させ、部屋の中は嵐にあったようにめちゃくちゃになっていたのだ。
とつぜんの訪問だったのでマキは驚いていたが、リョウの申し出を快く受け入れた。しかし時刻も遅かったので、大きな家具だけを元の位置に戻し、とりあえず寝られる状態になったところで、リョウは帰った。
……ふりをして、実際は一晩中、マンションの屋上にいた。
もしもまた、悪い〈狗〉が襲ってきたら、やっつけてやる。
そう思って待ち構えていたが、何もやってくる気配はなかった。だから、退屈しのぎに練習していたのだ。
〈飯綱〉づくりを。
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