第一章

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    2  講師が話し終えると同時にチャイムが鳴り、教室内の空気がたちまち緩んだ。  倭加宮マキも、机の上のテキストや筆記用具を片付け始めた。卒業に必要な単位は3年生の時に取り終えているが、4年生になっても、興味のある講義を受講するのは自由である。特にマキは、大学院への進学を希望しているため就職活動をしないので、比較的時間の余裕もあった。  1限目の授業だったので、昼までにはまだ時間がある。空いた時間はいつもそうしているように、図書館へ行こうと考えていると、後ろの席の女子二人の会話が聞こえてきた。 「ね、カフェ行かない? めっちゃかわいい男の子入ったんだよ」 「えーお店に?」 「そうそう。しかも、あそこって紅茶頼むと、お湯とティーバッグが出てくるだけだったじゃん。でも、その子がいる時だと、ちゃんと紅茶作ってくれるんだよ。で、それがめっちゃ美味しいの。同じティーバッグなのに」 「まじでー。飲みたい。ていうか見たい」 「でしょ! いこいこ」  二人がバタバタと出ていくのを見送ったあと、マキはゆっくりと出口に向かった。  この大学の図書館の隣には、店内のベーカリーで作る焼きたてパンが売りのカフェがある。緑の木々が茂る中庭に面していて、ウッドデッキのテラスがあり、値段も街中より安いので、地域の住民にもよく利用されている。  「かわいい男の子」にはさっぱり興味が湧かないが、彼が淹れてくれるという紅茶には心が動いた。図書館に行く前に、ちょっと寄ってみよう。  講義室から出て階段を降り、教務課に寄って休講のお知らせなどの掲示を確認してから、中庭に出た。  カフェの入り口で、あの二人組がきゃっきゃ言いながら出てくるのとすれ違った。  前面がガラス張りの明るい店内に入ると、パンの焼けるいい匂いがした。  カウンターにいるのは、前からここで働いている女性だった。「男の子」の姿は見えない。  マキはカウンターに近づき、メニューも見ずに注文した。 「紅茶をください」 「かしこまりました。紅茶お願いしまーす」  女性は奥の厨房に声をかけた。はあい、と返事が聞こえた。あれがその「男の子」なのだろうか。
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