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「学校は、どうすることにしたの」
「通信制の高校に入ることにしたよ。10月入学で」
「……そういうことなのね」
やっと納得がいった。リョウは、10歳の時からほとんど学校に行っていない。勉強は、学者だった養父の氷碕氏が教えてくれていたらしいが、彼の学業について、マキはずっと気にかけていた。
もちろん、中卒のまま働くという選択肢もある。
しかし、大学という場で学問を探求する楽しみを知っているマキとしては、リョウにはそういう可能性にも目を向けて欲しいと思っていたし、彼にもそのことを伝えてきたつもりだった。
「それじゃ、ここでバイトしながらおうちで勉強するのね」
「うん。ぼく、もう長いこと学校に行ってなかったから、通学はちょっとな、って。でも、外に出た方がいいことはわかってるから」
「よかったわ」マキは、安心して息をついた。「でも、どうしてここなの? 家から近いわけでもないでしょう?」
するとリョウは、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「ここなら、マキさんのそばにいられるから」
「……」
まっすぐな視線につきさされたような気がして、マキは思わず身を引いた。
とつぜん「ギャア」という、濁った叫び声が上がった。
発生源は窓の外。
続いて、ガンガンガン! と激しくガラスが叩かれる。
「何!?」
リョウが驚いて音のほうに顔を向けると同時に、マキは決然と立ち上がって入り口へ走った。
何が起きたのかわかっているような動きだった。リョウはあわててあとを追った。
店の外へ出た途端、頭の上から黒いものが襲いかかってきた。
「わあっ!」
とっさに顔を両手でかばったが、キャスケットをつつかれて飛ばされた。
「茂丸、おやめなさい!」
マキが鋭く叫んだ。
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