第一章

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「学校は、どうすることにしたの」 「通信制の高校に入ることにしたよ。10月入学で」 「……そういうことなのね」  やっと納得がいった。リョウは、10歳の時からほとんど学校に行っていない。勉強は、学者だった養父の氷碕氏が教えてくれていたらしいが、彼の学業について、マキはずっと気にかけていた。  もちろん、中卒のまま働くという選択肢もある。  しかし、大学という場で学問を探求する楽しみを知っているマキとしては、リョウにはそういう可能性にも目を向けて欲しいと思っていたし、彼にもそのことを伝えてきたつもりだった。 「それじゃ、ここでバイトしながらおうちで勉強するのね」 「うん。ぼく、もう長いこと学校に行ってなかったから、通学はちょっとな、って。でも、外に出た方がいいことはわかってるから」 「よかったわ」マキは、安心して息をついた。「でも、どうしてここなの? 家から近いわけでもないでしょう?」  するとリョウは、待ってましたとばかりに身を乗り出した。 「ここなら、マキさんのそばにいられるから」 「……」  まっすぐな視線につきさされたような気がして、マキは思わず身を引いた。  とつぜん「ギャア」という、濁った叫び声が上がった。  発生源は窓の外。  続いて、ガンガンガン! と激しくガラスが叩かれる。 「何!?」  リョウが驚いて音のほうに顔を向けると同時に、マキは決然と立ち上がって入り口へ走った。  何が起きたのかわかっているような動きだった。リョウはあわててあとを追った。  店の外へ出た途端、頭の上から黒いものが襲いかかってきた。 「わあっ!」  とっさに顔を両手でかばったが、キャスケットをつつかれて飛ばされた。 「茂丸(しげまる)、おやめなさい!」  マキが鋭く叫んだ。
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