0人が本棚に入れています
本棚に追加
南米はボリビア、その標高4000M近い高地に位置する、絶景で名を知られた湖のほとりに、外国人観光客を相手にした、土産物屋が連なる一画がある。
衣類、小物などの毛織物を中心に扱う、その中の一軒、古びた小屋の様な店舗を、家族が経営している少年は、頻繁に、その店番を任される。まだ11才にも、かかわらずだ。
「ユア、カントリー、コイン、プリーズ」
覚えた拙い英語でもって、そう観光客に声をかけて触れ合い、外国のコインを集めることが、目下、少年の最上の愉しみである。そんな少年の夢は、いつか、テレビでしか見たことがない飛行機に乗って、テレビでしか見たことがない海を越え、テレビでしか見たことがない外国を、旅することである。だが、少年の家は、経済的に決して豊かではないこの国の、更にその中の貧しい部類に属する。夢は、現実的ではない。
その日も少年は、店頭にいた。客は少ない。気が付くと、日が傾きかけている。少年は、父親の指示で早々に店を閉め、奥に行き、やがて家族揃って早めの夕食をとる。そして日が落ちると、眠りにつくまでの間、一人の長い時間がやってくるのだ。そこで少年は、「旅」に出る。
ベッドの下からクッキーの缶を出した少年は、中に保管してある、様々な国のコインを、アットランダムに床に並べ始めた。中には日本の10円玉を見受けられる。少年は、綺麗好きだ。くすんだモノを見つけると、ボロ布を使ってそれを綺麗に磨き上げる。その作業が済んで再び床に戻すと、部屋の灯りに反射して、全てのコインがキラキラと輝きだした。コイン同様、目を輝かせた少年は、今度はそれらを並べ替え、コインだけで想像上の世界地図を描いてみる。準備は整った。まだ見ぬ異国の地に思いをはせた少年の意識は、これから、家の天井を突き抜け、星空に大きく羽ばたいていくのだ。時計の針はもう、午後9時を指そうとしている・・・。
最初のコメントを投稿しよう!