6.酒と依頼と色気と男

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6.酒と依頼と色気と男

    「は、はぁ!? 俺が看護!?」 「はい、そうなんです……」  思わず立ち上がった俺に、喫茶店の客の視線が集中する。  慌てて席に着いた俺は、どういうことだと目の前の中年紳士……ザイアンさんに声を潜めて話を続ける。 「あの、看護って言われても俺医者じゃないし心得とかも無いんですけど!」 「看護と言っても難しい事は無いんです、ただその……人のいう事を聞かず、檻の外に出て来てくれないモンスター達をどうか手当てして頂きたく……」 「その説明はさっき聞きましたけど……」  そう、ザイアンさんが俺に深く頭を下げてまで頼みたかった依頼は、彼の療養所に収容されていると言う獣達の看護だった。  ザイアンさんは、捨てられたり主人を亡くした守護獣を保護し、この島で彼らを癒して、新たな主人を見つけるまでの世話をする活動をしていると言う。  守護獣の中には、首輪を付けられたまま契約を解除された獣もいる。  通常、契約が解消されたら守護獣は自由になれるのだが、首輪が付いたままなら話は別だ。彼らは自分ではその首輪を外す事が出来ず、実質人間に支配されたままの状態で彷徨(さまよ)っているのだと言う。  だから彼らは野生のモンスターから爪弾きにされてしまい、時には敵として襲われたりもする。その上、死別した場合なら主人がいない事で暴走したりもするので手が付けられず、そういう守護獣は路頭に迷った挙句駆除されてしまう事が多い。  だけど、相手も一度は人を信頼した存在だ。殺すには忍びないとザイアンさんは考えて、彼らを捕獲して療養所で治療し、新たな主人をお迎えするべく日々熱心に守護獣達の世話をしているらしい。  それを聞く限りはとっても良い話だけど……でも……手負いで凶暴な上に人間を近付けないケモノの看護だなんて、俺に出来る訳がねーだろー!! 「私達も手を尽くしたのです。ですが、彼らは人間不信に陥っていて、どうしてもいう事を聞いてくれず……けれども貴方なら……ダハを契約しないままお供にした貴方なら、彼らを救ってくれるのではないかと……!」 「そう言われると……うーん……。でも、俺とロクはお互い好きだから一緒に居るだけで、他のモンスターと話し合えるかは……」  
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