Cat

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 これは所謂(いわゆる)“イジメ”というやつではないだろうかと私は思った。健太の母が見ているワイドショーを私もいつも隣で見ているから、学校でイジメが問題になっていることを知っている。もちろん、猫の世界にもイジメはあるので、それがどういうものなのかは私にもわかる。だとすると、健太が自分の手首を切って死のうとしたのもわからない訳ではない。だけど、どうしてあんなに優しい健太がイジメにあわなければならないというのか。私はひどく憤りを感じた。とにかく、まずは健太を助けなければならない。 「健太を助けに行くから、あんた達、手伝いなさい!」  私は野良猫兄弟に声を掛けた。だけど、野良猫兄弟は震えながら首をブンブンと横に振る。トラに至っては、既にジリジリと後ずさりを始めている。 「ごめんよ、ノル。僕は君の頼みならきいてあげたいけど、さすがにあれは相手が悪すぎる」  キジもそう言うと、後ずさりを始める。 「何よ、あんた達。私に一人であいつらと戦えって言うわけ?」 「いや、ノルもあんな奴らと関わっちゃ駄目だ。命が大事だろう?」 「今はそんなこと言ってられないのよ!!」 「いくらノルの頼みでもこれだけは無理だ。ごめん!!」  キジはそう言うと、私に背を向けて一気に走り出した。出遅れたトラが、慌ててその後を追っていく。私は一人ぼっちになってしまったが、そうこうしている間にも、修と康介は健太を小突き回している。もう、これ以上は我慢ならない。私は茂みから飛び出し、一直線に健太たちの方に向かって駆けた。私は修に飛びかかり、顔面を力いっぱい引っ掻いてやる。修の顔には赤い縦の筋が何本も入り、そこから血が滲み出す。修は両手で顔を押さえて、呻き声を上げる。 「ノル!!」     
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