Cat

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 健太は泥だらけのカバンを床に下ろすと、ずぶ濡れのまま机に突っ伏した。せめて髪くらいは乾かしてやらないと風邪をひいてしまうと思った私は、健太の髪の毛を丁寧に舐める。すると、健太は頭を上げ、久しぶりに私を優しく撫でてくれた。だけどその表情は、ひどく悲しそうだ。 「ねえ、ノル。僕はもう死にたいよ」  健太がポツリと呟いた。その言葉に、私はあまりにも驚き、全身の毛が逆立った。こうなったら、何がなんでも健太の身に起こっていることを突き止めて、問題を解決しなければならない。私がそんな決心を固める横で、健太はナイフを握りしめる。 「ノル、いつまでも元気でな」  健太はそう言うと、ナイフを左手の手首に当てた。すぐに赤い血が滲み始める。私は慌てて、ナイフを握る健太の右手に噛み付いた。その勢いで、健太の手からナイフが落ちる。私はそれを確認してから、渾身の力で健太の頬を()った。猫の力で打ったところで、人間は大して痛くもないだろう。それでも健太は呆然と私を見ている。私が頬を打ったことによほど驚いたのだろう。私は健太がナイフを拾い上げる気配がないことを確認してから、血の滲む左手の手首を舐めた。健太はそんな私の頭を、優しく撫でてくれる。 「ごめんね、ノル」  健太の呟いたその言葉が、私の胸に深く刺さった。     
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