第1話 side runa

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第1話 side runa

21歳の初夏。暑い日だった。一通り買い揃えたリクルートスーツ、それに無理矢理染めた、不自然な黒い髪。 面白くも何ともない就活。興味もない会社ばかり。セクハラ紛いの面接。上から下までジロジロ見てくる女。上から目線のおエラいさん方。 外れ、外れ、外れ。 お給料の良いとこ、休みの多いとこ。そんな気持ちで挑んだもんだから……面倒くさい。どこでもいい。早く決めて遊びたい。 そんな中、出会った人だった。ここは、明らかに違う。 「暑いね~。今日は。人事の宮司(みやつかさ)です」 ……若い。そして、爽やかな人。それが第一印象。 「あ、暑いから、スーツの上……脱いでね」 そう言ってにっこり笑った。……確か、7人くらいだったかな?男女ミックスでその部屋に通された。 就活では、促されようとスーツを脱いだら落とされるとか、何とか聞いた事があったので、誰も脱がない。 「あ~、ちなみに脱いだからって落とさないよ? 僕にそんな権限もないからね」 そう言って、人懐っこく彼は笑った。 それから、人事の人数名が部屋に入ってきたが、雑談のような面接。それが、日にちを変えて何度か行われた。4回目で上層部との最終面接だった。 彼と会うのも4回目。 会うたびに、色々と話しかけてくれて、気づけば、この会社に入りたい。そう思っていた。 「わざわざ染めたの? 髪」 「はい」 「そっかぁ、可愛い顔立ちには淡い色の方が似合うかもしれないね」 そう言った彼に 「宮くん、セクハラ~」 一緒にいた女性がそう言った。 「あ、そうか。もうオッサンですもんね。僕……ごめんね」 ばつが悪そうに彼はそう言った。 「いえ、もっと……言って欲しいくらいです」 思わず言ってしまって、彼は少し目を見開いたが、すぐに表情を崩した。 「うん、可愛い可愛い。あはは! 」 ……ダメだった。もう。4回目に会った時には、もうはっきりと自覚出来るほどに……。 彼が、好きだった。 採用の電話を貰った時には思わず……泣いた。待てない。入社まで1年以上も。会わない間も、気持ちは膨らみ続け、その気持ちは今や自分でも恐怖を感じるレベルだ。
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