第1話 side runa

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内定が出てから、二回ほど会社へ呼ばれた。その年の内定は4人だ。 「入社まで、期間開いちゃうから……忘れないように。たまには遊びに来てくれてもいいけど? 」 4人の前で宮司さんはそう言った。もちろん、冗談なのは誰もが分かっていた。ふらふらした大学生から見たら、社会人は随分と大人に見えて、私達のリクルートスーツとは違い、仕立ての良さそうなスマートなスーツ姿が様になっている。 “憧れ” ちょうど年上に憧れる時期なのかもしれない。高校や大学でも少し年上の“先輩”とか、入学した時はこそばゆく感じた。 それよりももっと……“大人の男性”だから、憧れなのかもしれない。あまりに急速に進む気持ちに、そう言い聞かせた。 入社するまで、一年以上ある。そのうち、憧れだったと忘れるかもしれない。 「宮司さん! 質問いいですか? 」 用事が終わり、解散する前の雑談で隣の男がそう言った。 「中野君、元気だねー。いいよ、プライベートでも仕事でも」 「プライベートでお願いします」 ……ドキリとして、耳を澄ます。 「おいくつですか? 」 「おお、それプライベートになるのかな? せっかくだから当てて貰おうかな。結構ね、いくつだろ、この人……って思っても聞けないシーン多いからね。判断材料……見つけてね。 まずは、中野君! 」 「ピタリ賞、何か出ます? 」 もう軽口を叩けるほど、宮司さんは話しやすかった。 「この後、お茶でも奢ろうか? 」 「んー、32! 」 「上原さん」 「35」 「谷川さん」 「実は若くて25? とか……」 「相原さん」 「27歳です」 セコいけど、勝ちに行った。……知ってたから。彼と、お茶、したかったから。以前、彼より年上だろう女性に 『学生から見たら、27なんてオッサンですよ』 って言ってたの聞いていたから。 聞き逃すわけない。私が、彼の情報を。 「……この中にピタリ賞がいます」 「うわ、楽しみ~」 「……相原さん!! 」 「え~、老けてません? 」 「……老けてる? 俺……」 ちょっと悲しそうに言った。学生からしたら大人に見えるのよ。割りと、童顔よね。どちらかと言うと。 『俺』……プライベートでは、俺って言うんだ。そんなことで、キュンと心臓が跳ねた気がした。 それより、お茶。二人で。
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