7371人が本棚に入れています
本棚に追加
/393ページ
結局、彼の前でケーキを食べる事になり、口にクリームがついてないか一口毎に鏡を見たいくらいだった。
「相原さん、可愛いからモテるでしょー?」
彼は私がケーキを食べるのを、優しく見ながらそう言った。
「あ、ヤベ。セクハラだったね」
そう言っておどけた。ヤベ。って……そんな言葉も使うのか。それだけのことで、心臓がまた……うるさい。
「モテません。全くです。何もありません」
嘘だけど。
だけど、次の質問が出ないと、私も聞けないのだ。聞きたい……あの、質問が。
「嘘だね、それは」
「ほ、本当です。いません! 彼氏も」
もう、自分で言った。彼氏は?の質問を待ちきれずに。
「……そうなのか……まぁ、すぐ出来るよ」
「宮司さんは、宮司さんは……彼女……」
被り気味で聞いてしまって、聞きたかったのが、彼にもわかってしまっただろう。でも、構わなかった。
「いるよ。10年片思いして、やっと実ったんだよね」
そう言って、真っ直ぐに私を見て、笑わずに言った。
その目は、“だから、好きにならないでね”。なのか、“だから、諦めてね”なのか、いずれにしても、そこに壁を作られた気がした。
「10年て……すごいですね」
「そうだね……気付けば経ってたんだよね」
「一途に? 」
「気持ち……はね」
気持ちということは……そういう付き合いは他の人とあったということなのか……。
「いいなあ」
「そうかな? 気持ち悪くない? 実ったから良かったものの」
そう言って彼はいつのも爽やかな顔で笑った。だったら、私も十分気持ち悪い。実らないのだから、より一層。
「付き合ってどのくらいなんですか? 」
「1年」
10年の思いが実って1年。一番……一番幸せな、時だ。彼が私を見ることなどないだろう。ただでさえ、学生なんて。
どんなに可愛いと言われたって、褒められたって、彼が可愛いと思ってくれないのなら
いらない、こんな見た目。無駄なだけだ。
入社までの会わない間に忘れよう。そうでないと、入社したらますます辛くなる。それなのに、配属の希望は“総務”で出した。馬鹿げた努力、彼を忘れようだなんて。
心と体が別の生き物のように……コントロールが利かない。彼の目に私は映ってなかった。それだけはハッキリとわかっているのに。
最初のコメントを投稿しよう!