第1話 side runa

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結局、彼の前でケーキを食べる事になり、口にクリームがついてないか一口毎に鏡を見たいくらいだった。 「相原さん、可愛いからモテるでしょー?」 彼は私がケーキを食べるのを、優しく見ながらそう言った。 「あ、ヤベ。セクハラだったね」 そう言っておどけた。ヤベ。って……そんな言葉も使うのか。それだけのことで、心臓がまた……うるさい。 「モテません。全くです。何もありません」 嘘だけど。 だけど、次の質問が出ないと、私も聞けないのだ。聞きたい……あの、質問が。 「嘘だね、それは」 「ほ、本当です。いません! 彼氏も」 もう、自分で言った。彼氏は?の質問を待ちきれずに。 「……そうなのか……まぁ、すぐ出来るよ」 「宮司さんは、宮司さんは……彼女……」 被り気味で聞いてしまって、聞きたかったのが、彼にもわかってしまっただろう。でも、構わなかった。 「いるよ。10年片思いして、やっと実ったんだよね」 そう言って、真っ直ぐに私を見て、笑わずに言った。 その目は、“だから、好きにならないでね”。なのか、“だから、諦めてね”なのか、いずれにしても、そこに壁を作られた気がした。 「10年て……すごいですね」 「そうだね……気付けば経ってたんだよね」 「一途に? 」 「気持ち……はね」 気持ちということは……そういう付き合いは他の人とあったということなのか……。 「いいなあ」 「そうかな? 気持ち悪くない? 実ったから良かったものの」 そう言って彼はいつのも爽やかな顔で笑った。だったら、私も十分気持ち悪い。実らないのだから、より一層。 「付き合ってどのくらいなんですか? 」 「1年」 10年の思いが実って1年。一番……一番幸せな、時だ。彼が私を見ることなどないだろう。ただでさえ、学生なんて。 どんなに可愛いと言われたって、褒められたって、彼が可愛いと思ってくれないのなら いらない、こんな見た目。無駄なだけだ。 入社までの会わない間に忘れよう。そうでないと、入社したらますます辛くなる。それなのに、配属の希望は“総務”で出した。馬鹿げた努力、彼を忘れようだなんて。 心と体が別の生き物のように……コントロールが利かない。彼の目に私は映ってなかった。それだけはハッキリとわかっているのに。
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