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第2話 side runa
あれから……
会ってもいないのに、忘れるどころか大きくなる気持ちに自分でも戸惑う。
暇を持て余した、就職も決まった、単位も取れたそんな学生生活に、気づいたら彼の事を考えていた。彼の会社付近を意味なくうろうろし、彼を探した。
その甲斐あってか、数回……遠目に見ることができた。視力はいい方だけど……それにしても数回しか会っていない人をこんなにもすぐ見つけられるものだろうか……。
入社する頃には、私は23歳の年に。彼は、29歳の年だ。
彼の恋人がいくつなのかは知らないけれど、結婚していても……おかしくない。結婚していても、していなくても、彼の隣に私の居場所はないというのに。
……例えば、彼女がいなかったとしても
彼は私を見ないだろう。そんな気がした。
それほど彼にとって、私は……“対象外”だった。
──────
4月の入社式。
私の配属は“営業”だった。代わりに総務へいったのは、勘のいい中野くんだった。適性検査と、人事による采配。この会社の人事は総務と兼ねてるんだけど。
谷川さんが、総務所属の受付へ。
上原さんが、企画部へ。
ガッカリしたのか、ホッとしたのか
結局よく分からないけど……中野くんの申し訳なさそうな顔に苛立ち、一発蹴っておいた。
「……理不尽。まぁ、まぁ、情報流すから」
そう言った彼に、仲良くしておこうと思った。今日から約一ヶ月社会人としての基礎からノウハウ、上層部から話を聞いて、会社の沿革から……取り扱い商品の作られる流れから全て叩き込まれる。
部署が違えど、そこは共通で、他部署と関わりながら……宮司さんがメインで教えてくれる。それが終わると、フロアも別になってしまう。
営業のフロアは一つ下の階だ。出来たてホヤホヤの“営業部”
一ヶ月……か。
やっぱり、腹が立つ。中野……。
研修が終わったら、宮司さんとマンツーマンだろ。そうだ!中野にはバレたけど、もう悟られる訳にはいかない。
口角をきゅっと上げると、微笑んだ。
この会社にどんな女性がいるのか知っておきたい。彼女がいる彼に、部外者である私が心配しても仕方ないんだけど……誰にも近づかせたくない。誰も彼の良さに気づきませんように。
見当違いの牽制。心の中でだけの。注意すべき人をチェックした。
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