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「……中野君」
「はい……」
「有難う」
その後、直ぐにお礼を言った。
ようやく、彼女と食事に行けるきっかけをくれた彼に。
「いーえ、うまくいきました?」
「はは、もう聞いたんじゃないの? 向こうから」
彼女が、どう捉え、どう伝えているのか俺には分からない。
「あなたからも、聞きたいんですけどね」
中野君の言葉に
「重いのかなぁ。何にしても……今は何とも出来ない。俺……」
そう返した。
当然まだ、美智と話せていないし、俺の気持ちは彼女にとっては重たいのかもしれない。
「そ。気持ちだけじゃどうにもならない」
「その気持ちが大事なんですよ、あいつにとっちゃ」
中野君の言葉は最もで……
だけど
「これだけ……時間掛かっといて中途半端な事出来ないよ」
彼女は、まだ……若い。簡単に受け止められる物でもない。
「考え過ぎても、よくないでしょ」
「美智が帰るまで。そこからは、俺が……待つつもりだよ」
彼女が、受け止められるようになるまで。
何年だって、待つ。
納得しきってはないだろうが、中野君は頷いてくれた。
──もう一人。お礼を言わなくちゃならない。行ってくるか。
下の階の、企画部の前で少し待った。
「やぁ」
「あ……お疲れ様です」
「……この前……ありがとうね」
俺がそう言うと、彼はにっこり笑った。
「あはは! どうでした? ……なかなか悪いオトコでしょ?」
楽しそうにそう言った。
「ああ、本当。僕……君に似てるって言われるんだよね。うん、光栄だね。君みたいに悪い男になれるか、分からないけど」
「……泣かせないで下さいよ。あれ以上」
「……あー……なるべく早く……そうする」
俺がそう言うと堂本君は
「女の26は、男とは違いますからね」
そう言った。
「うん。それと……君の本命の彼女にも、嫌な思い……」
俺の言葉に少し驚いた顔をして
「そっちは、僕の仕事なんで」
彼はそう言って爽やかに笑って……
俺に手を上げて……その場を後にした。
少し前、堂本君の本命の彼女が誰だったか、知ってしまった。それなのに、俺にこうしてくれた彼は、やっぱり相原さんがそう言った通り、優しい男だ。
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