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第3章
夕方5時を回る頃、両親が帰宅した。
相変わらず厳格な表情の父と気の強そうな顔つきの母は、外見だけで人を不快な気分にさせる。
「あら…俊介、来てたの?」
全身、有名ブランドの服で着飾った母が俊介を見て言った。
オール最新モデル。バッグもコートもワンピースも、腕時計やアクセサリーまで全て。
俊介がまだ小学生の頃、母は一度も参観日に来たことはなかった。理由は『忙しい』から。
その当時でさえ、母はいつもこのブランドの新作を身に着けていた。品定めする時間や買い物に行く時間はあっても、子供たちの参観日に顔を出す時間はなかった。
父も同じだ。オーダーメイドにこだわった変人。
スーツもコートも靴でさえ。腕時計だけは祖父から譲り受けたものをずっと愛用していたが、それ以外は世界にひとつだけのものにこだわっていた。
「おい、俊介。仕事はどうなんだ?ちゃんとやってるのか?私立の高校教師になる話はどうなった?ちゃんと考えてるんだろうな?」
久しぶりに会った息子に掛ける言葉はまるで尋問のようだった。
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