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足を踏み入れたと同時に重力軸は何処へやら、行き先のデレットの眩しさに目を閉じ、次に目を開けた瞬間、何も無かった目の前に別世界が広がる。
これがこの街の普通だ。
ようこそ、ここはナルアブ通り。
混沌としたこの街の遊び人が集う路地。
私の住むエスクビール通りは本棚が路地の双璧を成しているが、ナルアブ通りの両脇には手頃なテーブルと椅子が所狭しと並ぶ。
その無数のテーブルの上に置かれるのは古今東西、数多の遊戯達だ。
将棋、セネト、チェス、ハルマ、リバーシ、マンカラ、トランプ、マックルック、アルド・リー、かるた、闘獣戯、モノポリー、チェッカー、バックギャモン、アレア・エヴァンゲリ、花札…エトセトラ。
僕がこの路地で遊んだことがあるのはこれぐらいだろうか。
ナルアブ通りの住民は常に遊び相手を探している。
故に3歩進めば
「よー、ひと勝負どうだい?」
「ね、一局どう?」
なんて声をかけられる。
互いに知っているものであれば、直ぐに遊戯は始まり、どちらかが知らないものであれば、ルール説明から始まる。
この路地の決まり事は至極シンプル、遊んだものは元の場所に片付ける。
理由も簡潔、駒や説明書が欠けてしまうと、遊べなくなってしまうからだ。
折角巡り合ったのに何も始まらないんじゃつまらないだろ?
楽しさを求め続けるこの路地で、それは何よりも酷な事なのだ。
仮にそのような行いをした者がいれば、この路地では刑罰の対象になる。
因みにエスクビール通りでは本のページを破る事は罪とされている。
破るページに寄って罪の重さも変わってくる。
例えば推理小説、犯人が明かされるページを破れば、極刑に課せられる。
おっと、すまない。
話が長くなってしまった。
今回この路地に赴いたのは取材の為だ。
とある人物と会う約束をしている。
着いてきてくれ。
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