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膨れ上がった人だかりが萎み切った。
日はすっかり傾き、黄昏時に差し掛かっていた。
柔いオレンジがすべてを染め上げていく。
「お疲れさまでした、楽しませて頂きました。」
しゃがみ込んでギターをケースに仕舞っているちっぽけで大きな背中に僕は声をかけた。
「あ、わっ、メレさん。来てくれたんですね!あら、まだ風邪拗らせているんですね。」
「ええ、どうも治りが悪くて。ビラ配りの時の約束を果たしに来ました。どうでした、初ライブ?」
「MCは噛むし、コードは幾つも間違えたし、リズムもブレ気味で中々しょっぱかったです。でも_」
ラナは立ち上がり、ギタケースを背負った。
「わたしを見つけられた気がします。」
ラナは踊るように走り出した。
こちらに振り返り、アンダースローで何かを僕に向かって投げた。
「それあげます、お大事に!家に戻って、新しい曲を作ります。」
ラナの時間は有限のモノとなったようだ。
会話もそこそこに見えない所まで駆けて行ってしまった。
夕日にかざしたアメはシトリンの如きエネルギーで輝いていた。
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