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少年に手渡された写真の背景は無色透明だった。どうやら被写体としたモノ以外の色は認識しないらしい。写真自体が透明な薄いフィルムのようだった。
その小さな長方形の中に薄墨色の靄が浮かび上がっている。
「...自分で言うのもなんですが、僕の心はあまり綺麗な色をしていないようですね。」
僕は率直に思ったことを口にした。
「嘘つきを被写体にすると、ぼやけた色と形を成すんです。」
少年の棘のある言葉に僕は妙に合点がいった。
そういう仕組みならば仕方がない、僕としては為す術がない。
僕の作品たちと嘘は切り離せない、決して。
「まぁ、僕の性根の腐りようは置いておいて、実に興味深いカメラですね。
心が被写体ということは、必然的にターゲットは人になるのでしょうか?」
収穫を欲張り、僕は食い下がる。
「人には限りません。種々雑多、万物に宿り、込められ、残される思いはこの子を通して具現化されます。故に2つとして同じ世界は生まれない。言葉では愛情とまとめられる心でも、悲愴と束ねられる心でも、この子とボクで切り取る世界では全く異なる心を奏でるのです。」
少年は両手で抱えたカメラを僕の方へ突き出して言った。
カメラのストラップがピンと張る。
「こほん、少々しゃべりすぎました。リオと言います。」
彼はここに来て自ずから名乗った。
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