一 幼少期から小学生時代まで

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これは本当に不思議なことだが、俺は父がいなくなったことに全く気付かなかった。 もともと、寝ているか、怒っているかの父しか知らなかったので、あえて父を探したり、声をかけるということはなかった。 だから、父がいなくなったのも気づかなかったし、例えば学校で父親の話になった時に、「そういえば父を最近見ていないな」と思う程度であった。 全く薄情な息子であると言えばその通りだが、子どもなんてそんなものだと思う。 自分の世界が全てで、自分の周りだけが自分の世界なのだ。 総理大臣が変わっても気にしない人がいるように、父親がいなくなっても気づかなかった。 ただ漠然と、「みんなは保護者の名前はお父さんの名前なのに、どうして僕はお母さんなんだろう」と思っていたことだけは覚えている。
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