泣く女    鴻池光広

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 私はうだつの上がらない、痩せこけた若者です。肌の質がざらざらとした、とかげのように醜い男です。こんな私のことを、彼女は気に入ってくれるでしょうか。笑って迎えてくれるでしょうか。  不安な気持ちを吹き飛ばそうと思って、鏡の自分自身に向って、声を出して笑ってみました。  それこそあごがはずれそうなくらいに大きな声で笑ったので、部屋の外にも筒抜けだったことでしょう。しかし一人暮らしでしたし、隣の家の家族からもすでに変人扱いされていたので、どうってことはありません。  そのあと私は、どうやって彼女を探し出し、この高鳴る胸の内を彼女に伝えるか、長いあいだ鏡に映る自分と相談していました。  交番へ行くことにしました。  結局、自分一人の力では探しようがないと、思いいたったからです。テレビや新聞に広告を載せることや、探偵を雇うことも考えたのですが、ほとんど貯金はありませんでしたし、なによりも私には彼女の名前すらわからないのです。まさか日本全国を探しまわるわけにもいきません。  夢以外のどこかで見かけたことがあるような気もするのですが、よく覚えていませんでした。  そんな私の気持ちを知ってか知らずか、お巡りさんは意地悪に質問してきます。 「で、その探している人の名前は?」  私は力なく首を横に振ります。 「じゃあ、年齢か、どの辺に住んでいるかとかはわかるかい?」     
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