泣く女    鴻池光広

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「たぶん、年は十六、七歳です。住んでいるところは、よくわかりません」 「ふうむ、困ったねえ。それじゃあ君、探しようがないよ。なにか特徴とかないの?」   特徴といっても、彼女には首から下がないのです。当然わかりません。  そこで私は言いました。 「そうだ。彼女は泣いているんです。とても悲しそうに、泣いているんです」  お巡りさんは、私の顔をまじまじと見つめます。 「君、名前は?」  意味もなく赤面してしまいました。  私はお礼を言うのも忘れ、逃げるようにその場を去りました。  文具店へ行って、スケッチブックと色鉛筆を買いました。  彼女の顔を描くつもりでした。  しかし、いざ画用紙を開いて色鉛筆を握ってみると、彼女の顔がうまく思い出せません。いえ、頭の中にイメージは浮かぶのですが、それを紙の上に重ねることができないでいるのです。私は、このときほど自分の絵心のなさを恨んだことはありませんでした。  そうかといって、私の頭の中にあるイメージを、他人に描いてもらうわけにもいきません。  私はぐっと目を閉じて、よく彼女の顔を頭の中に思い描いてから、その特徴的な部分だけを、すばやく紙の上に描き記しました。  潤んだ大きな瞳。そこから頬を伝う涙。     
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