泣く女    鴻池光広

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泣く女    鴻池光広

 私は、鴻池光広の書いたという脚本に目を通してみた。それは形式を無視した、とても脚本とは呼べぬ、むしろ作文とでも呼んだ方が良いような、作品であった。               *  泣く女の夢を見ました。  暗闇に女の首から上だけが、提灯のように浮かんでいます。  蒼白い、さめた顔。まだ十六、七の少女でしょうか。  頬を涙で濡らしています。  しとしと。しとしと。  まわりは永遠の暗闇。彼女の顔の他には、一切なにもありません。  ただ、蒼白い灯のように浮かぶ、泣く女の顔があるだけです。  なぜに彼女はそんなにも悲しげに泣くのでしょうか。  しとしと。しとしと。  美しい。  私は、彼女が笑ったのならば、もっと美しいだろうにと思いました。  夢から覚めたとき、私は彼女を探すことを決意していました。  なぜなら私はすでに、夢の中の彼女に恋をしてしまっていたからです。  顔を洗って、自分の顔を鏡で見てみました。  流行に合わせようとむりやり伸ばしたロングヘアーと、枯れ木のような細い腕が目につきます。     
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