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最初に感じた死は、一番最初に殺した女性の老人の死だった。
顔にハンマーを叩き付け、何度も腕を下した。死に顔とよべるようなものはなかった。
喜びなどはなかった。
次は、男子中学生の死だった。
すれ違いざまに心臓をナイフで刺した。死に顔は苦痛に満ちていた。
何かが違うと思っていた。
次は、キャリアウーマンの死だった。
監禁して、責め苦を合わせてからナイフで出血多量を狙い殺した。やはり死に顔は苦痛で満ちていた。
苦痛の表情が何かが違う原因だと分かった。
次は、20歳の後輩の死だった。
お酒を飲ませて泥酔状態にさせ、一旦別方向に向かってから翻して喉元に刺した。死に顔は綺麗だった。
自分が求めていたのはこれだと気づいた瞬間だった。
喉元に刺すことで綺麗な死に顔が見れると分かってからは、どうやって刺すかだけを考えた。
失敗もあった。直前で気づかれ脳天や心臓に刺さったり、相手が護身グッズを持っていてやむを得ず鳩尾を刺したりもした。
だが、綺麗な死に顔が作れた時の高揚は忘れもしなかった。
その後も次々と死が襲った。
近所の公園に訪れるおじいちゃんや塾帰りの少女などなど、全てで30人分。
老若男女、あらゆる性別も年齢も、失敗も成功も、全て自分自身が平等に与えた死が、因果応報として体を蝕み、侵食していく。
「今回の試運転において重要だったのは、現代において最も多く死者に恨まれ、その原因を作った人物が現在も生存していること。その点、あなたは最適でした。30人を殺した連続殺人鬼。今もなお活動しており、最も死者に恨まれている。そのような人物が必要でした」
目の前の死神が何か話しているが、何も聞こえない。
「なぜなら人の負の感情、これがどれだけの影響を及ぼすのか調べるためです。私たちはただぶつけるだけで何もしないのですが、人の負の感情は生者にどれほどまでの影響力を持つのか。死者の呪いで人は殺せるのか。これらのデータを取りたかったのです」
死神が歩み寄るが、視界がかすみよく見えない。
「どうですか、30人分の死は?」
死神が手を伸ばすが、何も感じない。
「ああ、もう駄目でしたか。では最後にーー」
自分が溶けていく。体も感覚も何もかも。
いやだと叫ぶ心すらも既に死んでいた。
「無事、あなたへとお返死いたしました」
そうして、自分は”死”となった。
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