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死神のお返死
「あ~あ~、何かあ~良いことでも~起きないかなあ~っと」
スーツ姿の男は一人、街灯がほとんどない住宅街をふらついていた。今宵は満月だったが、あいにくと雲に覆われて月光は閉ざされていた。
男は酒でも飲んで酔っているのか、足つきはふらふらと、顔は日焼けしたかのように真っ赤で、そして今も缶ビール片手に歩いていることが酔っていることの何よりの証拠だ。いかにも仕事終わりに酒を飲んで帰宅中、というありきたりな社会人の姿を模していた。
もっとも、それは片方の手に血濡れたナイフを持っていなければの話だが。
「だれ~か~いない~かなあ~。あ~あ~男でも~女でも~かまわない~。だれ~で~も~い~い~、俺の心をおお~満たして~くれ~~~」
鼻歌を歌いながらナイフを宙に躍らせ、体を左右に揺らしながら人を探すような獰猛な目つきをしている様からは、一目見れば歪であるはずなのに何故か不自然さがなかった。
それほどまでに男にとって人を殺すことは、朝に歯を磨くような習慣で、昼休み中にタバコを吸いに行くかのように自然な行為で、夜に酒を飲むように日常であった。
「ど~こかにい~~い~な~い~かな?――――あ、いた」
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