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「うん?」
初めは気のせいだと思った。周囲に誰もいないことなど確認済みで、大方何かのゴミが風で動いたのだろうと考えていた。
だが、振り向いた時、その考えは一蹴された。
さっきまで地面に倒れていたもの。数分前に刺したもの。今日の一番の死に顔ができた作品。それがもぞもぞと動いたのが見て取れた。
まず腕が動いた。次に足が動いた。さらに頭がこっちを向いた。死に顔はそのままに、だがどこかしら眼が動いたような気がした。
「刺した??よな?」
それは刺した喉元から血が出続けることを確認することで立証された。そもそもナイフを抜いた時点で大量の血液が周りを染めていた。死んでいたはずだ。
体温は感じず、冷めていた。死んでいたはずだ。
瞳孔は開いたままだった。死んでいたはずだ。
それでも動く。死んでいたはずのものは生者のように動こうとしていた。
やがてソレは立ち上がり、こちらを見つめる。顔はそのままに。
「???」
男からすればソレは不思議な現象でしかなかった。一般人ならばホラーだと言って泣き叫んで逃げることだろうが、男にはそのような感性は持ち合わせていなかったのだ。
だが、
「いやはやまさか待ち伏せしていたらいきなり刺されるとは思いませんでしたよ相手が最近巷で噂されている連続殺人鬼だったので気持ちは整えていたんですがねえ」
「------は?」
その動じない感性からでも驚いた。死体が立ち上がっただけでなく、流暢に喋り始めるとは思いもしなかった。だが口は動くが顔は驚いた表情のままだ。それがまた不気味だった。
「まあ私死んでいるので死なない身体ですが痛みは感じるので辛いものですおっとまだ人間のフリをしたままでした。よっと」
そう言ってソレはどこからか黒い布を取り出し、全身を包み込んだ。
そして、ソレにたまたま雲に隙間が出来て、月光が差し込んだ時、ついに正体を現した。
ソレは黒いハットを被り、燕尾服を着ていた。黒黒黒。髪に至るまで黒であり、唯一色が違うのは肌色くらいだった。
全身を黒ソレは、こちらに深々とお辞儀をしながら、手始めにといって、
「どうも初めまして。私、死神です」
「ああ、どうも初めまして」
こうして男は謎の存在と邂逅を果たした。
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