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ホット・プリンセス
手が温かいからといって得することはない。
『冬でも温かいからいいじゃない』と言われても寒いものは寒いし、『手袋いらないでしょ』と言われても私からすれば冬は寒いので手袋はつけたい。
ドラマでよくある『君の手は冷たいね、僕が温めてあげるよ』なんて展開は苦手。私の場合はたぶん逆の温めてあげる側になってしまうから、そんな台詞に憧れることすらない。
この手の温かさにいいことは一つもないけれど――悪いことはある。
好きな人がいても想いなんて伝えられない。だって恋人になったら手を繋ぐんだもの。手が熱くて汗っかきな私の手なんて、気持ち悪がられるに決まってる。
手を繋ぎたくないから、好きな人に近づくのが怖い。
最悪な、てのひら。
ぼん、と机の足に何かが当たった。
「色田、消しゴム取って」
何が当たったのかと確認する前に、隣の席に座る真崎が言った。つかいかけの消しゴムはころころと転がって私の足先で止まっている。
まただ。また真崎は消しゴムを落とした。呆れて私はため息をつく。
真崎は一日一回以上は消しゴムを落とす癖があるらしいく、それは毎回こちらに転がってくるので、拾うのはいつも私。
「……はい」
「どうも」
拾って、渡す。消しゴムの端を持ったけれど、真崎は私の指ごと消しゴムをつかもうとするので、手がかすかに触れ合ってしまう。ほんの少しかすめた程度でも、私にとっては嫌な作業だった。
だって真崎は、私の手を触ろうとしてくる。
一日一回は消しゴムを落とすのもそのため。授業中、隣の人にプリントを渡してなんて指示がでれば、真崎はわざとプリントの端を持っているから、指先が触れてしまうのだ。
でも、真崎にだけは触られたくない。
だって私の好きな人は真崎だ。もしも、この手汗に気づかれてしまえば、嫌われるに違いない。てのひらだけでなく指先でも触れたら気づかれてしまいそうで怖くなる。
それでなくても消しゴムを渡す動作一つでさえ緊張して、目を合わせるだけで心臓が締めつけられたみたいに苦しくなるのに。真崎相手だと普段より手に汗をかいてしまうのだから、触れられたくなかった。
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