ホット・プリンセス

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 私の手の温かさはクラスの皆が知っていることで、男子女子問わず手を触りにやってくる。特に冬は人気で、夏になると誰も触りにこない。休み時間になれば、暖を求めるかのようにクラスメイトがやってきて私の手を握りしめていた。 「色田、俺の手あたためて~」  異性だからといって緊張はしない。それは真崎の時だけだ。  私は気づかれないようハンカチで手を拭ってから、男子生徒の手を握りしめた。 「さすがホッカイロいらずの色田だよなあ」 「でも私も冬は寒いからね」 「嘘だろー。あー、俺のかじかんでた手が蘇るぅ」 「あ、ずるーい! 次は私の手もあたためて!」  冬の教室は冷えていて、男子生徒以外にもクラスメイトがやってくる。皆の手は私からすれば氷のようで、でも心地よい。隣の席の真崎によってのぼせていた頭が冷えていくような気がしてしまうから。  そうして休み時間も終わりになろうかという頃、真崎が席に戻ってきた。私の周りに集まっていたクラスメイトたちも自席へと戻っていく。 「色田は人気者だな」  皆とのやりとりを真崎は見ていたのだろう。教科書を机に並べながら、ぼそぼそと呟く。 「手が温かいだけだよ」 「みんな、お前の手を触りにくるだろ。男子の手を握りしめて嫌じゃねーの?」 「……そんなことはない……けど」  相手が男子でも女子でも嫌悪感を抱いたことはない。でも真崎だけはだめだ。  こうして真崎と手について話していると緊張してしまう。知られたくない、触られたくない。 「男子の手でも別にいいんだ?」  頷きそうになって、でも先の展開が読めてしまったから言葉を飲みこむ。  真崎はじっと見つめていた。そこにあるのは私、いや私のてのひらだ。  きっと私の手を触りたいと言うのだろう。この手汗を知られたくないからと断れば、真崎だけ特別に触らせないのだと気づかれてしまう。断らなければこの手にじっとりと浮かぶ汗に気づかれて嫌われる。  どちらに転んでも地獄。ならば、その言葉を言ってほしくない。 「なあ、俺もお前の手を――――」  『触りたい』と唇は動いていたけれど、その音を掻き消すように授業開始のチャイムが鳴る。  真崎は不満そうにしていたけれど、先生が教室に入ってきたので諦めるしかない。  ともかく助かった。私のてのひらは守られた。ありがとう授業の神様!
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