ホット・プリンセス

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 家庭科の授業が終わって、次の授業へ。  その途中も真崎が消しゴムを落とすことはなかった。不思議になって様子を窺うと、家庭科の授業までは普段通りだったのに、なぜか不機嫌。  隣の席の人とノートを交換して採点しあう課題が出た。私の相手は真崎。いつもならば不自然なほどノートの端を持って渡すから指が触れ合うのに、今日はそれがない。真崎は綺麗にノートを持っていた。 「どうしたの?」  気になってしまって、授業中にひそひそと声をかける。けれど真崎はこちらを見ることもなくあっさりと「別に」と返すだけ。  その声音に感じ取るのは、苛立ち。真崎は私に怒っている? でも怒られるようなことをした覚えはない。  結局、下校時間になっても真崎の機嫌は悪いまま。  私は何かしてしまった? 怒られるようなことを言った? 手を触らせたくないのがバレた?  悶々と考えていたけれど答えは出なくて――生徒玄関で靴を履き替えようとしている真崎の背に声をかけた。 「真崎、話があるんだけど」  これは相当怒らせているのかもしれない。真崎は振り返らずにそっけなく答えた。 「何?」 「……今日、真崎が怒ってるみたいだったから。私、何かしちゃった?」 「別に。さっさとパン屋の嫁にでもなればいいだろ」  なるほど。原因は家庭科の授業か。  でもどうして真崎が怒るのだろう。もしかして真崎はパン屋に恨みがあるのかも……ってそんなわけはないか。 「パン屋の嫁って話はしてたけど……それでどうして真崎が怒るの?」  そこでようやく真崎が振り返った。  向かい合って立つと、ああ、やっぱり真崎は王子様みたいだ。フォークダンスの時ほど近くはないけれど、でも胸が張り裂けそうなほど苦しい。目を合わすのは少し恥ずかしいけれど、そらしてしまえば真崎のことが嫌いだと告げているような気がして逃げずに向き合う。
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