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「お父様は無理強いなんてなさらないでしょ。納得いかなければ、いつもわかるまできちんと説明してくださるじゃないの」
「──そう、父上は正しい。いつだって絶対に正しいんだ」
そう呟いたヒューバートの目は昏く翳っていた。ソニアは言葉を失い、兄の整った横顔を見つめた。ソニアに対して父はいつも優しく愛情深いが、それはソニアがいずれ他家へ嫁いでいく身であるがゆえなのかもしれない。
準王族グィネル公爵家の跡取りであるヒューバートは、ゆくゆくは父の後を継いで国政の中枢で重責を担うことになる。家を継ぐ跡取りと出て行く娘とでは扱いが違って当然。兄にとっての父は、ソニアにとっての父とはまったく違う重みを持っているのだ。
「……ごめんなさい、お兄様」
「なんだい、いきなり」
「わたし、性格が大雑把で、お兄様の気持ちがまるでわからないのだわ……。お兄様はわたしと違って頭がよくて繊細だから、きっと色々と悩みがあるのよね」
目を瞠っていたヒューバートが、可笑しそうに噴き出した。
「ソニアは相変わらず変わってるなぁ。貴婦人はふつう自分は大雑把な性格だなんて言わないよ。『わたくし繊細でとっても感じやすいんですの』とか何とか、溜息まじりになよなよと言うものだろ。本当かどうかはともかくとして」
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