12人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
のんびりした声が部屋の奥で上がる。別方向の入り口から茶器一式を載せたワゴンを押して現れたのは、先ほど馬車を操っていた金髪垂れ目気味の青年だった。やむなしといった表情でアビゲイルが肩をすくめる。
「最後の客もちょうど来ました。──どうぞ、入って」
背後に向かって声を上げると、ひとりの青年がおずおずと現れた。
「エリック……!?」
兄ヒューバートのかつての従者エリックは、ソニアを見てホッと安堵の表情になった。
「お嬢様! よかった、ご無事で──」
ソニアは皆まで聞かず怒り任せに掴みかかった。
「あなたのせいね!? あなたのせいでお兄様は変になっちゃったんだわ……!」
「ち、違いますッ」
「はいはい、双方落ち着いてー」
べり、と音をたてる勢いで金髪青年がソニアとエリックを引き剥がす。後ろからギヴェオンがソニアの腕をそっと押さえた。
「あなたの警護をブラウニーズに依頼したのは、このエリックさんなんですよ」
弾かれたように振り向くと、ギヴェオンの蒼い瞳が眼鏡の奥で透徹と光っていた。
「……どういうこと」
「まずは落ち着いて、お茶を一杯召し上がってからです」
最初のコメントを投稿しよう!