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第23話 緊急時以外も役に立ちます。
にこっと彼はいつものように笑った。アビゲイルに促されてさらに奥にある小さな居間へ入り、座り心地のよい長椅子に腰を下ろしてギヴェオンが淹れてくれた紅茶のカップを受け取る。
金髪の青年はワゴンを押してきただけで、あとはギヴェオンに任せて窓際に腰かけてにこにこしながら一同を見ていた。
ソニアは熱い紅茶を用心しながら最後まで飲み干し、膝に載せた皿に戻した。
「……そろそろ説明してくださる? もう落ち着いて聞けると思うわ」
「ことの発端は、エリックさんが当斡旋所へいらしたことです」
アビゲイルの言葉に、ソニアは緊張しているエリックをじろりと睨んだ。
「お兄様の従者をクビになったから、別の仕事を探そうとしたわけね」
「い、いえ、そういうわけではなく……」
「だってここ、家事使用人の斡旋所でしょ」
「表向きはね」
平然と不穏なことを言ってアビゲイルが微笑んだ。造作が整っているだけに何とも言えない凄味がある。
ぞくりとした感覚を打ち消すように、明るい声が響いた。
「それはないでしょ、所長。うちはちゃーんとふつうの斡旋業もしてますよ」
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