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「……きっかけが何だったのか、泥酔していたわけでもないのに記憶がぼんやりして思い出せないんです。気がつくとオージアスと差し向かいで飲んでいて、彼が言いました。自分の主人がヒューバート卿と近づきになりたがっていると。珍しい話じゃありません。そんな輩は掃いて捨てるほどいます。ヒューバート様は準王族である公爵家の跡取り息子ですから。私はいつものように適当に話を合わせておきました。中には賄賂めいたチップを渡して取次ぎを頼もうとする輩もいますが、そういうのはお断りしています。ヒューバート様は内気なところがあって、あまり積極的に交際範囲を広げたがらないんです。私もそこいら辺は肝に命じてお仕えしておりました」
エリックは言葉を切り、紅茶の受け皿を割れそうなくらいに握りしめた。
「……それが、数日後にヒューバート様のお伴で出かけた時、オージアスとその主人にばったり出くわしたんです。ただの偶然なのか計られたものなのかわかりません。無視しようとしましたが、オージアスと目が合った途端に気分が悪くなって倒れてしまったんです。気がつくと病院で、ヒューバート様がおっしゃるにはオージアスの主人が馬車で運んでくれたとか……。それでヒューバート様は彼らをすっかり信用してしまって」
「オージアスの主人って誰なの?」
「エストウィック卿と名乗る、得体の知れない外国人ですよ」
エリックは吐き捨てるように答えた。
「エストウィック卿!? それって、〈世界の魂〉とかいう結社の後ろ楯でしょ」
「そうです。そいつがろくでもない組織にヒューバート様を引っ張り込んだんです。私はヒューバート様を何とか抜けさせようとしました。オージアスにも、妙な活動に旦那様を巻き込むなと何度も強く抗議しました。でも奴はのらりくらりと言い逃れるばかりで」
(そういうところをナイジェルに目撃されて、誤解されたんだわ……)
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