第24話 僕はもうダメなんだ。

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「──すみません。まだ続きがありました。飛び出したものの、何日か経ってこっそり戻ってみたんです。まだ鍵を持っていましたし、エストウィック卿と付き合うようになってから旦那様はとても体調が悪そうだったので気になって。寝室を覗くと旦那様が臥せっているのが見えました。私に気付くと嬉しそうに微笑まれて、『ああ、エリック。戻ってきてくれたんだね』とおっしゃって──。痛々しいくらいしわがれたお声で、私の手を握りしめて何度もすまないと繰り返されました。すぐに医者を呼ぶと言いますと、旦那様は弱々しく首を振って『もう遅い。僕はもうダメなんだ』と言うばかりで。そのうちに顔色がますます悪くなって、死人のような土気色に変わってガタガタ震えだしたのです。苦しげに咳き込まれて、もういても立ってもいられず、医者を呼びに行こうと立ち上がったところノックもなしに扉が開いて、オージアスが手に小さな盆を持って入ってきました。盆の 上には注射器とかゴムのチューブとか、何か医療器具のようなものが色々と乗っていました。医者を呼べと怒鳴りますと、奴はふてぶてしく『自分は医師の資格を持ってる』などと言い出したのです。そうする間にも旦那様の容体はますます悪くなって、オージアスも焦った様子で私を押し退け、手早く注射をしました。何の薬だかわかりません。突き飛ばされた拍子に頭を壁にぶつけて目が回っていたものですから……。ただ、血のように赤いものが入っていたのはどうにか見えました」  ソニアは青ざめて拳を握りしめた。 「お兄様、やっぱり病気だったのね……」 「注射をすると旦那様は一応落ち着かれて、そのまま眠ってしまったようです。私は恐ろしくなって寝室を飛び出しました。追いかけてきたオージアスに睨まれたら急に身動きできなくなって……。その時、呼び鈴が鳴らなかったらどうなっていたことか……」 「誰が訪ねてきたの?」 「郵便屋です。私はとにかく恐ろしくて、配達人を突き飛ばして逃げ出しました……」  ソニアは何といっていいかわからず、うなだれたエリックを見つめた。 「……それで、ここに相談に来たのね」
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