第8話 磨くのはお嬢様の靴だけです。

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「それを面食いと言うの。もぉ、気をつけなさいよ。どれだけ顔がよくたって、性格もいいとは限らないんだから。あーあ、これじゃわたしがフィオナを見張ってなきゃ。顔だけ男に騙されたりしたら大変」 「騙されたりしませんってば!」  真っ赤になって抗議するフィオナを笑ってあしらいながら、ソニアはやはりあのオージアスという新しい従者が気になって仕方なかった。  はっきりした根拠があるわけではない。先ほど手紙を持ってきた時にそれとなく観察してみたが、確かになかなかの美形だ。  身内の贔屓目を差し引いてもヒューバートはかなりの美青年だし、何というか主従の釣り合いは取れている気がする。物腰はそつなく、洗練されている。良家の出身であってもおかしくない。にも関わらず、何やら得体の知れない感じがするのだ。 (得体が知れないと言えば、ギヴェオンも似たようなものだけど……、あっちは印象が真逆なのよね。何というか、毒気を抜かれるって感じ?)  へらっと笑う黒縁眼鏡の顔が頭に浮かび、がくりと肩を落とした。ソニアの従僕である彼は食事時にはソニアの給仕担当で、晩餐の時もずっと後ろに控えて椅子を引いたり皿を取り換えたりしていた、はずだ。兄との会話に夢中でほとんど見ていなかった。 (そうだわ。オージアスをどう思ったか、後で訊いてみようっと)  翌日、部屋に呼ばれたギヴェオンは、眼鏡の奥で青い瞳を瞬きながら首をひねった。     
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