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「わたし、そういうの性に合わないのよ。たぶん生まれてくる家を間違えたのね」
「そんなことないさ。むしろ……」
言葉尻が曖昧に消え、ふいにヒューバートは歓声を上げた。
「ご覧よ、ソニア。今夜の目的地が見えてきた」
窓の外を覗くと、夕闇を背景に城の尖塔が浮かび上がっていた。いつのまにかアステルリーズを囲む城壁の外に出ていたのだ。
「あれ、もしかしてアラス城? ギオール河の曲がり角にある……」
「そうだよ」
得意気にヒューバートは頷いた。
「あそこって今は誰も住んでいないんじゃなかった? 何とか言う新興の男爵が買い取ったけど、住むには不便だって」
「だから人に貸してるのさ。今夜はその人からの招待なんだ。誰なのかはまだ内緒」
くすくすとヒューバートは笑った。目的地が違うと知った時は不安に駆られたが、秘密めかしたことを言われればわくわくしてくる。兄が一緒なのだから心配することはない。
城はどんどん間近に迫ってきた。窓辺で灯が揺らめき、外には篝火が焚かれて宵闇の中に城を浮き上がらせている。堀に掛けられた石橋に差しかかると、窓外を覗きながらヒューバートが脅かすように注意した。
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