第9話 こんな不意打ち、あんまりです!

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「この堀はギオール河と繋がってる。ふつうの堀と違って流れが速いから、あっという間に河まで流されてしまうそうだ。はしゃいで落ちないようにね」 「まぁ、失礼ね。お兄様こそ酔っぱらって落ちないでよ」  軽口を叩き合ううちに馬車は城の入り口で止まった。周囲には馬車が行列をなしている。先に出たヒューバートの手を借りて降り立つと、扉の脇に金モールと金ボタンのついた外出用お仕着せ姿のギヴェオンが控えていた。  彼は困惑顔でソニアを見た。とまどっているのは自分も同じだとソニアは必死に目で訴えたが、兄に腕を引かれて歩きだしてしまったので通じたのかどうかわからなかった。  入り口で招待状を渡して中に入る。大広間では楽団による音楽が流れ、早くもダンスに興じる人々でいっぱいだった。ざっと見渡した限りでは、知った顔は見当たらない。 (思ったよりも人が多いわ……)  室内を照らすのは電灯ではなく本物の蝋燭を使った巨大なシャンデリアだ。古風というより、電気が使えるのは城壁の内側だけなのだ。大広間を中心に幾つもの部屋が開放され、料理や飲み物が満載された長卓が並び、会話やカードを楽しめる部屋もある。  ヒューバートは人込みをかき分け足早に進んでいった。軽く何か摘みたいのに有無を言わさず引っぱられ、ソニアは美味しそうな軽食の載ったテーブルを恨めしげに眺めた。     
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