第10話 沼に嵌まったら抜けるのは大変です。

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第10話 沼に嵌まったら抜けるのは大変です。

 きらめくシャンデリアの灯が、ソニアの耳朶を飾るダイヤモンドのイヤリングに反射する。振り向いたソニアは、悩ましげに眉根を寄せるナイジェルを見つめた。 「お兄様の様子がおかしい? それ、どういうこと」  ふたりは開放されたテラスの隅にいた。室内は照明の放つ熱と人いきれでかなり暑くなっており、テラスを吹き抜ける初夏の夜風が心地よい。  互いの近況を報告しつつ冷肉やゼリー寄せなどを軽く摘んで大広間に行くと、ちょうどダンスが入れ代わるところだった。礼儀正しく申し込まれ、内心では狂喜しながらあくまで楚々と頷く。音楽に合わせてくるくる回りながらソニアは夢見心地だった。  ナイジェルに初めて出会ったのは、兄が大学に入った年の冬だ。年末年始の休暇を一緒に過ごそうと誘い、兄が領地の屋敷へ連れてきた。  今思えば、ほとんど一目惚れだった。挨拶を交わした瞬間、今まで経験したこともないくらい胸が高鳴り、頬が熱くなった。当時まだ社交界に出ていなかったソニアにとって、兄以外の若い紳士で親しく言葉を交わしたのはナイジェルが初めてだった。     
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