第10話 沼に嵌まったら抜けるのは大変です。

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 その時は緊張しただけだと思っていたが、社交界デビューして青年貴族たちと話をする機会が増えても、そういう反応が出るのはナイジェルだけだった。去年の冬、三回目に彼に会って、自分は彼が好きなのだとようやくソニアは自覚した。  ヒューバートはソニアと同じく、よく言えば活発、悪く言えば騒がしいのに対し、ナイジェルは落ち着いて寡黙な青年だった。いつも穏やかに微笑んでいるが、必要があればかなり厳しいことも言う。少し軽はずみなところのある兄にとってはいいお目付役だ。  ナイジェルは古い伯爵家の出身で、幼い頃に家族を亡くしており、成人するまでずっと後見人がついていた。法定年齢に達して自由を得ても箍が外れることはなく、淡々と勉学に励んでいる。そんな慎重で理性的なナイジェルから兄の様子がおかしいなどと聞いてはとても聞き流せない。ソニアは室内の人込みを見回したが、兄の姿はなかった。 「──お兄様がどうしたって言うの」 「前回ヒューバートと会ったのはいつだっけ?」 「お正月よ。春先の休暇は、お友だちの領地に誘われてるとかで戻って来なかったわ」  ナイジェルと会うのもその時以来だ。家族のいない彼は長期休暇でも領地へはあまり戻らず、ここ二年はソニアたちと過ごした。グィネル公爵家では夫人が亡くなっていて家族の数が少なく、他家より気兼ねなく過ごせるらしい。 「久しぶりに会って、何か変だなって思わなかった?」     
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