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膝からがくんと力が抜ける。歩廊の壁にすがりついて顔を上げると、斜め前に将校服の男が立っていた。
その手に握られた銃を目にしてソニアは凍りついた。それは兄が持っているものよりずっと大きく、見るからに強力そうだった。
「……銃を下ろしたまえ、ヒューバート卿。弾はもう一発も残っていない」
ソニアは茫然と男を見上げた。やはり素性はとっくにバレているのだ。男は落ち着きはらった声音で続けた。
「抵抗しなければ乱暴はしない。準王族としての処遇を保証する」
こと切れた親友を放心して見つめていたヒューバートが、のろのろと顔を上げた。視線があてどなくソニアと将校の間を泳ぎ、ふらりと銃口をこめかみに当てる。ヒッとソニアの喉が鳴った。
何のためらいもなく、ヒューバートは引き金を引いた。
かちん、と虚しい音が静まり返った城壁の上に響いた。ヒューバートの顔が泣き笑いにゆがむ。彼は身体を折り曲げ、大きく痙攣した。
「ふっ……くくっ……」
切れ切れの笑い声が響く。手から銃が滑り落ちた。ヒューバートは両腕で自らを抱くように、身体を折ったまま笑い続けている。
今兄がどんな表情をしているのか、床に座り込んでしまったソニアには見ることができなかった。
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