第15話 旦那様は亡くなられました。

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第15話 旦那様は亡くなられました。

 ソニアは解放された一般客や兵士たちでごった返す正面玄関ではなく、人の少ない側面の出入口から外に出た。  将校服の青年に二の腕をがっちりと掴まれている上、前後を銃剣で武装した兵士に挟まれている。逃げる隙はなさそうだが、それ以上にソニアは気力が尽きかけていた。茫然として何も考えられない。  憧れの人が目の前で死んだ。しかも撃ったのは実の兄。その兄は奇怪な変貌を遂げて恐ろしい怪物と化し、神剣で斬られて堀に落ちた──。  現実の出来事とは思えなかった。あまりに多くのことが一時に起きて、理解が追いつかない。石畳の継ぎ目に細いかかとが嵌まり、ソニアはよろけた。傍らの将校がすかさず支え、転倒を免れる。 「ありがとう……」  放心したまま礼を述べると、無機質だった将校の瞳にわずかながら感情が浮かんだ。 「よければ腕に掴まって」  ソニアはぼんやりと将校の腕を取った。  頭のどこかで、この人が兄を斬ったのだという思いが浮かんだが、それはひどくぼやけていて明確な感情を呼び起こすことはなかった。彼が斬った相手は、ソニアの知る兄とは似ても似つかぬ姿だったから──。     
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