第15話 旦那様は亡くなられました。

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「私はキース・ハイランデル。帝都警備軍、特務隊所属。階級は少佐です」  青年は深みのある声で告げ、軽く会釈をした。ソニアは上の空で頷いた。 「しばらくこの中でお待ち願えますか」  キースは立ち止まり、停めてあった黒塗りの箱馬車を示した。おとなしくソニアが従おうとした時、ガラガラとけたたましい車輪の音が聞こえた。  一台の馬車がまっすぐこちらへ突っ込んでくる。キースが何ごとか叫び、ソニアの身体を軍用馬車に押しつけた。ソニアは奇妙な非現実感に捕らわれながら、突進する馬車を茫然と眺めた。  手綱を握る御者の目許が、煌々と焚かれた篝火を受けて不自然にきらりと光る。眼鏡だ。ぼんやりとしていたソニアは、横面を叩かれたようにハッとした。  ギヴェオンが御者台で手綱を取っていた。馬車はほとんど体当たりするようにこちらへ突っ込んでくる。彼が片手を差し伸べるのが見えた。  時間の流れがゆっくりになり、騒音が遠ざかる。キースに押さえ込まれながらも、ソニアは必死に手を伸ばした。指先が触れたと思った瞬間、身体が宙に浮いていた。 「きゃあぁぁぁぁっ……っ!?」  気付いた時にはギヴェオンの膝に横座りしていた。悲鳴を上げ、降りようともがく。 「わわ、暴れないでっ、危ない! そのまま掴まってて下さい」     
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