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馬車は全速力で疾走している。車輪の音や車軸の軋む音、バネのたわむ悲鳴のような音が一気に現実となって戻ってきた。
この状態では御者台に座るのも難しい。仕方なくギヴェオンの膝の上に乗っていることにしたが、あまりに振動がひどくて安定を保とうとすると彼に抱きつくしかない。
暴走に近い速度の馬車から転げ落ちたら大怪我どころでは済まないだろう。ソニアは覚悟を決めてギヴェオンにしがみついた。
「うちの御者はどうしたの?」
騒音に負けじと大声で尋ねると、ギヴェオンは前を向いたまま答えた。
「いきなり兵士がやってきて御者や従僕をまとめてどこかへ連れていっちゃったんですよ。私はたまたま外してて。隠れて様子を窺ってたらお嬢様が出てくるのが見えたんです」
「これからどうするの」
「もちろん、お屋敷へ戻ります。お嬢様を軍に留置させるわけにはいきませんよ。そんなこと、旦那様がお許しになりません」
屋敷内にいれば軍も手出しはできない。準王族たる公爵家の息女を捕えるとなれば、正式な許可書がいる。
そのような許可書は簡単には出ない、というか、まずもって出されることはない。捕えるならば現行犯逮捕しかないのだ。
やがて帝都を囲む城壁が迫ってきた頃、ようやくギヴェオンは速度を緩め、後方を確認してから道端に馬車を止めた。
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