第15話 旦那様は亡くなられました。

4/7

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
「いくらか時間を稼げたようです。中に入ってください」  ソニアは急いでギヴェオンの膝から降りて馬車に乗り込んだ。ふたたび走り出し、今度は怪しまれない程度に速度を落として無事城門を通過する。  美しく花で飾られた街灯が大通りを明るく照らしていた。まだ多くの馬車が走り、歩道には通行人があふれている。  屋敷に近づくにつれ、歩道の様子がおかしいことに気付いた。いくら千年祭で一時的に人口が増えているとはいえ、どうしてこんなに人が群れているのだろう。今頃は食事をするなり劇場へ行くなりしているはずだ。  しかもみな妙に興奮した様子で一方向へ向かい、前方を指さして声高に叫ぶ人もいる。  ソニアは馬車の窓を開け、顔を出した。夜空が赤く染まっていた。  ギヴェオンが固い声で呟いた。 「……火事のようですね」 「も、もしかして、うちの方向じゃない……? ──ギヴェオン、急いで!」  ぴしりと手綱が鳴り、馬車の速度がぐんと上がった。近づくにつれ、黒い煙が立ち昇っているのも見えてくる。  間違いなく火事だ。水を積んだ消防用の馬車が激しく鐘を鳴らしながら追い抜いていく。     
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加