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悪い予感は屋敷に近づくにつれて大きくなり、ついに最悪の確信へと変わった。燃えているのはまぎれもなくグィネル公爵邸だった。
消防用の馬車や作業員で屋敷の前は埋まっていた。動員された警邏兵が集まった野次馬を後方へ押しやったり馬車の誘導をしている。
ソニアは窓から身を乗り出して屋敷を見つめた。広壮な屋敷が炎に包まれ、燃え上がっている。その熱気は馬車にいても感じられるほど強烈だ。膝ががくがくして、窓枠をぎゅっと握りしめる。
「お父様……、お父様はどうなったの……!? ──ギヴェオン、馬車を寄せて」
「これ以上は無理です」
「だったら降りる!」
ソニアは自らドアを開けて飛び下りようとしたが、どうしたわけかドアが開かない。
「何よこれ、どうなってるの!?」
半狂乱でソニアはわめき、ドアを叩いた。こうなったら窓から出てやる、と思いっきり身を乗り出してもがいていると、泣きべそまじりの少年の声がした。
「あっ、お嬢様!」
顔を上げると、顔や服を煤で汚した少年が駆け寄ってきた。ソニアの情報源、小姓のティムだ。
馬車から半身以上乗り出した不安定な格好で、ソニアは腕を伸ばした。
「ティム! お父様は? お父様はご無事なの!?」
「そ、それが……」
言いよどむ小姓の姿にいやな予感が込み上げる。
「どうしたの、はっきりおっしゃい」
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