第15話 旦那様は亡くなられました。

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「俺、頭に来て大声を上げたら、ちらっと振り向いたエリックさんがあんまり真っ青で凄い形相だったんで、何があったのかと急いで中を覗いたんです。カーテンが燃え上がっているのが見えて、びっくりして中に入ると、胸から血を流して旦那様が倒れていました。騒ぎを聞きつけたフレッチャーさんや他の人たちがやってきて、急いで旦那様を運び出したけど、その間に火が燃え広がってしまって……」  ううっ、とティムは声を詰まらせた。 「それで、旦那様はどちらへ?」 「わ、わかりません。俺、逃げるのに必死で。すみません! すみません、お嬢様!」  混乱したティムはわっと泣きだして詫び始めた。ソニアは茫然とするあまり声もかけられない。  そこへ、複数の馬蹄の轟きと「いたぞ、あそこだ!」と怒鳴る声が聞こえてきた。振り向いたギヴェオンは濃灰色の軍服を来た男たちに舌打ちした。 「追いつかれたか……。仕方ない、いったん逃げますよ。きみも乗って」  有無を言わさず少年の襟首を掴み、ドアを開けて馬車の中に放り込む。どうやっても開かなかったのに、とソニアは目を丸くしたが、放り込まれた少年がのしかかってきて後ろにひっくり返ってしまった。 「ああっ、すみませんお嬢様っ」  ティムは慌てて離れようとしたが、馬車が急発進してもろにソニアの胸元に顔を突っ込んでしまう。  どうにか座席に座り直した時には少年は緊張と狼狽で半死半生になっていた。
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