第16話 残さず召し上がればお話しします。

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「今朝早く、お屋敷の様子を見て参りました」  天気の話でもするように、のんびりと彼は言った。ソニアはハッと顔を上げた。太い黒縁眼鏡に遮られた蒼い瞳には何の含みもなく、ただ穏やかに凪いでいる。 「……どうだったの」 「訊きたいですか?」 「もちろんよ!」 「では先にお食事を。残さず召し上がればお話しします」  ソニアは眉をつり上げたがギヴェオンは平然としている。 「先に話して」 「お食事が先です」  穏やかな口調ながら、ギヴェオンには一歩も譲る気配はない。  ソニアは唇を噛んだ。悔しいが、軍に連行されるという不名誉から救ってくれたのはこの男だ。  あの時はショックで茫然自失状態に陥ってしまってそこまで気が回らなかったが、準王族たる公爵令嬢が特務隊に拘束されたなどと知られたら社交界に顔を出せなくなってしまう。 「……食べればいいんでしょ」  拗ねたように呟き、ソニアはナイフとフォークを掴んだ。ギヴェオンは軽く会釈して戸口脇に控えている少年に向き直った。 「ティム。ここはいいから階下へ行って何か食べて来なさい。しばらくしたら珈琲を持ってくるように」 「は、はい。ギヴェオンさん」     
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